■世界同時不況下の中学校選択
 2010年の状況

■減少する中学受験生

2008年9月にアメリカの証券会社リーマン・ブラザーズが破綻し、それを期
に世界同時不況へと突入して行きました。中学受験は準備に3年前後時間をかけ
るので、不況だからすぐにやめることにはならないにしても、徐々にその影響は
出てきています。バブル崩壊の時もその直後よりも2年くらい経ってからの方が
受験生が減少しています。


2010年2月25日に森上教育研究所が発表した、首都圏2月1日私立中学受
験率(小6在籍者数当たりの受験者数の割合)が、0.5ポイントと大幅に落ち
込み、13.5%となっています。なぜ2月1日受験率かと言うと、東京では最
も重複受験が少ない受験日だからです。この日の受験者が実際の私立中学受験の
実態をもっともよく表していると考えられます。

今年は2004年の水準に逆戻りしています。不況で学費の負担が大きいという
のが最大の要因ですが、別な面も影響を与えていると考えられます。それは同じ
不況でも経済的な不安ではなく、学歴をつけて一流企業に就職できても、その会
社がなくなってしまったり希望退職者を募ったりする様子を見て、中学受験が本
当に必要なのかと疑問に感じ、ブームに乗っかっていた受験生が撤退したのでは
ないでしょうか。


■もはや私立か公立化という二者択一ではない学校選択が重要

社会の状況がこのように変化してきて、さらに人々の価値観も多様化していま
す。中学選びも私立なのか(国立を含む)、公立なのかというくくりでは選べな
くなってきています。個々の学校を見てその価値を判断する時代に入ったのでは
ないでしょうか。

公立中高一貫校も増え、さらに進学指導重点校の指定を受けた公立高校も多く存
在します。一方の私立中学では伝統を捨て急激な改革を実行して本来の良さを
失ってしまったところもあります。

また進学実績が躍進している私立中高一貫校に入っても、適応できずにドロップ
アウトしてしまう生徒もあり、受験生個人の向き不向きも最大限考慮しなくては
なりません。

子どもによっては小学生の内は幼く、中学生になってから精神的に成長します。
そんな子は高校受験を経験することでさらに伸びる可能性があります。この場合
はむしろ小学校高学年では受験勉強よりも多様な経験を積ませる方が子どものた
めになります。

そうは言っても地元の中学が荒れていて改善の見込みがないのなら、自由に選択
できる私立中学を選びたいという気持ちも親としては当然です。

結局は一般論ではなく、「我が子にとってもっとも良い進路はどこか?」という
ことを時間的に長い視点で見据えることにつきます。


■学校選択は家庭のベクトル次第

高度経済成長期のように社会で価値観を共有していた時代は簡単でした。しっか
り勉強して、良い学校に進み、良い企業に就職すれば幸せになれました。当時の
小学生は子ども心にも同じように感じていたと思います。

しかし現代はそうではありません。大きくなったら何になりたいかと子どもに尋
ねると、さまざまな答えが返ってきます。昔の男の子はダントツ野球選手が多
かったのですが、今はトップでも十数パーセントで他に様々な職業に希望が分か
れています。

大学進学実績第一で選ぶと子どもの希望とミスマッチになってしまうかも知れま
せん。知り合いの子どものように「サッカーが強い○○中学に行きたい」という
選び方もあります。運動部でしっかり活動した経験のある学生は就職で有利だっ
たりしますので、学業以外に力を入れてもいいのではないでしょうか。

またある学校は趣味の分野でオタク的な凝り性の生徒が多く集まり、他の学校な
らいじめられていたかも知れないけれど、進学した学校で友達ができて良かった
という話もあります。

よく言われることですが、公立の学校なら多様な家庭の子どもが集まるからたく
ましくなるという考え方もあっていいでしょう。

中学生と言えば思春期まっただ中。勉強だけがすべてではありません。友達の影
響を一番受けやすく、親の言うことを聞かなくなる年頃です。どんな人間関係が
築けるかも重要なポイントです。ただ、ここまでくると学校の実態を相当深く知
らないと判断できません。

結局は各家庭がお子さんの将来の何に価値を見いだすかによって、学校選択が変
わってきます。そしてそれに合う学校を個々に探していくことがベストの道なの
です。中学受験率が下がった今、冷静に足下を見つめ直したいものです。

e-お受験 黒田官兵衛筆
文責 木下 健藏